開業を考え始めると、気になるのが「いくら用意すれば始められるのか」ということです。
「店舗を出すには、どのくらい必要なのか」
「自宅やネット販売なら、少ない資金でも始められるのか」
「設備や商品をそろえたあと、手元にいくら残しておけばよいのか」
開業資金について調べると、業種ごとの平均額や目安が見つかります。
しかし、同じ業種でも、店舗を借りる人と自宅で始める人では必要な金額が違います。新品の設備をそろえる場合と、手持ちの道具や中古品を使う場合でも変わります。
そのため、開業資金は「この業種なら○万円」と、一つの金額だけで考えることはできません。
大切なのは、平均額を探し続けることではなく、
自分の事業では、開業までに何が必要で、開業後にどのような支払いが続くのか
を分けて考えることです。
この記事では、開業資金を考える際に知っておきたい、初期費用と運転資金の違い、店舗型と無店舗型の費用の違い、見落としやすい支払いについて整理します。
開業資金はいくら必要なのか
開業資金として必要な金額は、事業の始め方によって大きく異なります。
例えば、商品を販売する事業でも、広い店舗を借りて多くの在庫を並べる場合と、オンラインで少量から販売する場合では、資金の使い方が違います。
サービス業でも、お客様を迎える店舗が必要な事業と、訪問やオンラインで提供できる事業では、必要な設備や固定費が変わります。
開業資金を考える前に、まず次のような事業の形を整理する必要があります。
- どこで営業するのか
- 商品や材料を先に用意する必要があるか
- どのような設備や道具が必要か
- 一人で始めるか、人を雇うか
- 開業後、毎月どのような支払いがあるか
一般的な相場は、考え始めるための参考にはなります。
ただし、その金額が自分にも必要とは限りません。事業の形を決めずに相場だけを見ても、資金が多いのか少ないのかを判断できないからです。
開業資金は初期費用と運転資金に分けて考える
開業資金は、大きく分けると「初期費用」と「運転資金」があります。
日本政策金融公庫の創業計画書でも、創業時に必要な資金を設備資金と運転資金に分けて整理する形式が使われています。設備資金には店舗、機械、備品など、運転資金には商品仕入れや経費の支払いなどが含まれます。
初期費用とは
初期費用は、開業前または開業時に必要となる、まとまった支出です。
代表的なものには、次のような費用があります。
- 物件の契約費用
- 内装や設備の費用
- パソコン、什器、道具などの購入費
- 開業時の在庫や材料
- 看板、名刺、Webサイトなどの準備費
- 許認可や法人設立などの手続き費用
何が必要になるかは、業種や営業方法によって異なります。
店舗を借りる場合は物件や内装の負担が大きくなりやすく、自宅やオンラインで始める場合は、機材、システム、広告などへ費用が移ることがあります。
運転資金とは
運転資金は、開業後に事業を続けるためのお金です。
家賃、仕入れ、通信費、広告費、配送費などは、営業を始めたあとも発生します。
開業資金というと、店舗や設備など、目に見えるものへ意識が向きやすくなります。
しかし、開業日に店や設備が完成しても、その後の仕入れや営業に使うお金がなければ、事業を動かし続けることができません。
日本政策金融公庫も、創業資金を考える際には、事業開始後の運転資金や、売上が計画を下回る場合の資金について検討するよう案内しています。
店舗型では物件費以外にもお金がかかる
店舗を借りて開業する場合、家賃だけを見て物件を判断しないことが重要です。
契約時には、敷金や保証金、礼金、仲介手数料などが必要になることがあります。
さらに、物件の状態や事業内容によっては、内装工事、電気工事、給排水設備、空調、看板、照明なども必要です。
物件を借りた日と、営業を開始できる日は同じとは限りません。
工事や準備、許認可の取得に時間がかかれば、売上がない期間にも家賃や光熱費が発生します。
また、安い物件を選んでも、必要な設備が不足していれば、追加工事によって総額が大きくなることがあります。
物件を選ぶ際は、家賃だけでなく、
その場所で営業を始めるまでに、最終的にいくらかかるのか
という視点が必要です。
無店舗でも開業資金が不要になるわけではない
自宅、ネット販売、訪問型サービスなどは、固定店舗を借りるより初期費用を抑えやすい場合があります。
ただし、無店舗だからほとんどお金をかけずに始められるとは限りません。
例えば、ネット販売では、商品の仕入れ、撮影機材、梱包資材、販売手数料、システム利用料、広告費などが必要になる場合があります。
自宅で作業する場合も、保管場所や作業設備が必要になることがあります。
予約制やオンラインサービスでは、予約システム、通信環境、決済サービスなどに費用が発生することもあります。
店舗型と無店舗型の違いは、単純に「高いか安いか」ではありません。
どの費用が減り、代わりに何が必要になるのかを確認することが重要です。
自宅で営業する場合は、賃貸借契約や管理規約で事業利用が認められているか、業種に必要な許認可や設備条件を満たせるかも確認する必要があります。
売上が出る前から支払いは始まる
開業資金を考える際に見落としやすいのが、支払いと売上が発生する時期の違いです。
物件を借りれば、開店前から家賃が発生することがあります。
商品を仕入れれば、売れる前に仕入代金を支払います。
Webサイト、広告、システムなども、売上が入る前から費用がかかる場合があります。
さらに、商品が売れたり仕事を完了したりしても、すぐに現金が入るとは限りません。
クレジットカード決済、ネット販売、請求書払いなどでは、売上が発生した日と入金日が異なります。
帳簿上は売上が出ていても、支払日に使える現金が足りなければ、営業を続けることが難しくなります。
開業資金を考えるときは、
- 支払いはいつから始まるのか
- 売上はいつ頃から発生するのか
- 実際の入金はいつになるのか
という時間の流れも見る必要があります。
事業資金と生活費は分けて考える
個人で開業する場合は、事業のお金と生活のお金が混ざりやすくなります。
開業準備へ貯金の多くを使ったあと、売上が安定するまでの生活費が足りなくなることもあります。
反対に、事業の支払いが増え、生活用に残す予定だったお金を使う場合もあります。
そのため、開業資金を考えるときは、
- 事業を始めるためのお金
- 事業を続けるためのお金
- 自分や家族が生活するためのお金
を分けて考える必要があります。
事業が黒字でも、生活費まで含めると手元資金が減っていることがあります。
また、生活費を事業から多く引き出せば、仕入れや広告、設備の修理などに使えるお金が少なくなります。
事業用と生活用の口座を分けるなど、少なくとも記録上は区別できる状態にしておくと、お金の流れを確認しやすくなります。
借りられる金額だけで開業規模を決めない
開業時には、融資を利用して資金を準備する方法があります。
自己資金だけでは難しい設備や、開業後の運転資金を確保できる点は、借入れの利点です。
ただし、借りられる金額と、無理なく返済を続けられる金額は同じではありません。
借入金には返済があり、売上が少ない月にも支払いは続きます。
そのため、
いくら借りられるか
だけで店舗の広さや設備の規模を決めるのではなく、
返済を含めた毎月の支出を、事業として負担し続けられるか
を考える必要があります。
日本政策金融公庫の創業向け資料でも、自己資金や借入れへの依存度、売上が計画どおりにならない場合、無理なく返済できるかといった点が確認事項として挙げられています。
融資制度や審査条件は、金融機関、制度、時期によって異なります。
具体的な借入額を決める際は、事業計画と返済見込みを整理したうえで、金融機関や創業支援機関へ相談することが必要です。
開業時にすべてそろえる必要はない
開業前は、理想の店舗やサービスを完成させてから始めたいと考えがちです。
しかし、営業を始める前には、本当に必要な設備や、お客様が求めるものが完全には分からないことがあります。
開業時に多くのお金を使ってそろえたものが、実際にはあまり使われないこともあります。
そのため、次のような方法で初期費用を抑える選択肢もあります。
- 手持ちの設備や道具を使う
- 中古品やレンタルを検討する
- 在庫や商品数を絞る
- 間借りやレンタルスペースから始める
- 催事やネット販売で反応を確かめる
- 必要になったものを営業後に追加する
大切なのは、何でも安く済ませることではありません。
事業の中心となる設備、安全や衛生、法令に関わる部分まで削ると、営業に支障が出たり、後から買い直したりすることがあります。
最初から必要なものと、営業を始めてから追加できるものを分けることで、資金を残しながら始めやすくなります。
資金が足りないときは、始め方も見直す
必要な費用を考えた結果、手元資金では足りないと分かることがあります。
その場合、費用の項目を少しずつ削るだけでなく、事業の始め方自体を見直す方法があります。
例えば、広い店舗から小さな店舗へ変更する、固定店舗を借りる前に間借りで試す、商品数を絞るなどです。
開業時期を少し延ばし、自己資金を増やすことが適切な場合もあります。
一方で、必要な運転資金まで削り、手元にほとんどお金が残らない状態で始めると、開業後の動きが制限されます。
仕入れ、広告、設備の修理などが必要になっても、資金がなく対応できない可能性があります。
資金が足りないと感じたときは、
何を削るか
だけではなく、
どのような形なら無理なく始められるか
を考えることが重要です。
開業資金は「始められる額」ではなく「続けられる額」で考える
開業資金を考える目的は、開業日を迎えることだけではありません。
営業を始めたあとも、商品やサービスを提供し、反応を見ながら改善を続けるためです。
開業前にお金を使い切ってしまえば、売上が少ない時期や、想定外の支払いが発生した際に対応しにくくなります。
反対に、費用を抑えることだけを優先し、必要な設備や準備が不足すれば、お客様へ十分な商品やサービスを提供できない場合があります。
開業資金を考える際は、
- 開業前に必要な初期費用
- 開業後に必要な運転資金
- 売上と入金が安定するまでの期間
- 事業とは別に必要な生活費
- 借入れを利用する場合の返済
を分けて確認する必要があります。
ただし、一般的な記事を読むだけでは、自分に必要な金額までは分かりません。
店舗の有無、仕入れ、設備、毎月の支払いなどを、自分の事業条件へ置き換えて考える必要があります。
自分が開業するために必要な金額を確認する
この記事では、開業資金を考える際の基本として、初期費用と運転資金の違い、店舗型と無店舗型の費用、支払いと入金の時間差、生活費や借入れについて説明しました。
ここから先は、自分の事業で実際に必要になる項目と金額を書き出し、手元資金と照らし合わせる作業が必要です。
ひとり商いラボでは、会員向けに**「開業資金計画シート」**を用意しています。
このシートでは、開業前に必要な費用だけでなく、開業後に毎月出ていく事業費、生活費、売上や入金の見込みを分けて入力し、初期費用を支払ったあとにどの程度の資金余力が残るかを確認できます。
一般的な開業資金の相場を見るだけではなく、
- 自分が開業するために必要な金額
- 開業後に毎月必要となる金額
- 手元資金でどの程度の期間を支えられるか
- 見直した方がよい費用や不安な点
を、自分の数字に置き換えて整理するための資料です。
分からない項目や、自分の場合にどのように考えるべきか迷う点は、会員専用オープンチャットや公式LINEで確認できます。
ひとり商いラボでは、開業資金だけでなく、開業までの順番、場所、屋号・会社名、共同経営、法人化、開業後の運営などを整理する会員資料も利用できます。
開業する。
改善しながら、
事業を育てる。
▼ ひとり商いラボについて詳しく見る
https://www.emongroup.com/hlab_kaigyo-lp_v1.php
※本記事は、開業場所や店舗物件を検討する際の一般的な考え方を整理したものです。用途地域、建築用途、用途変更、消防設備、営業許可、契約条件などは、物件、地域、事業内容によって異なります。物件を契約する前に、不動産会社、大家、自治体の建築担当部署、消防署、保健所、行政書士、建築士などへご確認ください。

